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  • sanositeaka

多分少女を守る運命

 特定の宗教を信仰しているわけでも無い現代の若者に属する私ではあるが、この時ばかりは神様ってやつが無情なのだなと感情という感情を失った。


「もうそこまで迫ってきてるぞ!!!!急げ!!!!」


 視界はオレンジ色に近い。赤というには明るすぎる。呼吸するたび熱くて咽せ返り、じりじりと焼けていくような感覚。汗が吹き出ては乾くの繰り返し。肌にも服にも煤がついて黒く汚れていた。非常口の階段はゴウゴウと音を立てて蜃気楼すら見えかけている。唯一動くこのエレベーターには、この階の人間が必死に集まっていた。


「Алиска!!」


 エレベーターの中の女性が叫んでいる。なんだなんだと人と人の隙間を縫って前の方を見ると、外国の女の人が周りに止められながら泣き叫んでいた。英語ではない……分からないけど、周りの数人も外国の人であった。本当に小さな隙間からエレベーターの外を見ると、そこに倒れている人がいた。


「ーーこども?」

「早く乗れ!!!!っ、子どもは、諦めろ、あそこはもう爆発を……!!」


 反射だ、これは。運動会のスタートのパンって音を聞いた時のような、脊髄反射で動きだすそれそのものだ。人を掻き分け飛び出た。あの子を見殺しにできないとなぜ思ったのかすら分からないが、そんなことを考える間も無く子どもまで走る。転けたであろうの子どもを起こして抱きしめ、エレベーターに戻ろうとした瞬間、背中にぐわっと熱を感じた。


「ーーーーードアを閉めろ!!!!!!」


 叫ぶ。そしてしゃがんで子どもーー少女を庇って覆うように地面に伏せた。直後、ゴワッとした熱を感じて一瞬意識が飛んだ。気付いた時には下で少女が泣いているし、なんか遠くから声がする。最後の力を振り絞って少女の上からどき、エレベーターがあるであろう方向に指を向けた。


「ごー、get on……go!!」


 もう視界すら見えない。でも少女は守り切れたらしいことはわかる。早く乗れ、早く逃げろ、早く行け。そう思って、そのまま意識は途切れたのだ。

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